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2008.03.08

戦前~戦後の歴史を、太宰とともに

2月7日(金) 「人間合格」 18:30~ 於・紀伊國屋サザンシアター

こまつ座第84回公演・紀伊國屋書店提携

作/井上ひさし 演出/鵜山仁 出演/岡本健一(津島修治)、山西惇(佐藤浩蔵)、甲本雅裕(山田定一)、辻萬長(中北芳吉)、田根楽子(青木ふみ)、馬渕英俚可(チェリー旗) ☆岡本健一以外は、他の役も兼ねる

 今までも何回か書いているけれども、私は決して太宰が好きではない。むしろ10代には拒否反応を示していたと言ってもいいくらい。・・・だのに、なぜか太宰に縁のある地周辺に住み、「ここに遺体が揚がったのね」という場所を何度も見て、厳寒の斜陽館にまで行ってるのである。こういう状況なら、「人間合格」だって、やっぱり見るでしょ、という感じ。

 まあ、ほんとに見ようと思ったのが直前なので、相当後ろの方の席ではあったけれど、でも通路際でもあり、帰りはラクチンにエレベーターに乗れたのでした。

 1989年の初演以来、今までに4回も上演されており、今回が5回目。しかし、私は全くの初見。

 参考までに「場割」を書いておく。

プロローグ ふろしき劇場(昭和5年4月)、クロネコ行動隊(昭和5年11月)、タワシ(昭和7年2月)、午後の散歩(昭和11年11月)--休憩--かぞえうた(昭和17年正月)、惜別(昭和19年12月)、金木の楽屋(昭和21年12月)  エピローグ

 最初に6枚の大きな写真がステージに現れる(プロローグ)。幼児期からの太宰のおりふしの写真で、ストーリーにかかわってくる。遠かったので最初はよくわからなかったけど、オリジナルに似せた岡本健一ほか出演者の扮装写真らしい。前半はずっと、大地主の子として生まれながら(生まれたがゆえに?)、東京帝大に入学してからずっと続けた共産党のシンパ活動の様子が描かれる。正直、1、2あたりはちょっと退屈なところもあったかな。私くらいの年齢でも、すでに当時の状況はわかってない。実体験がないのは当然だけど、「歴史」としてもきちんと学んでいないあたりだから。3あたり(いわゆるオルグ活動?)から、だんだん舞台にも動きが出てきた。

 休憩後が、笑いあり涙ありで、がぜん面白くなってくる。5の舞台は三鷹市下連雀の家。家庭を持ち長女が生まれている。ここはまあ様子の紹介程度で、中心は6の惜別。戦局も厳しくなってきたころ、仙台の駅前旅館で、偶然にも出会った旧知の4人=ずっと地下に潜って非合法活動をしてきた佐藤(旅館の板前)と、客として現れた3人が、マンガチックなんだけど、おもしろうてやがて・・・は世の常で。そして価値観もガラッとかわってしまった戦後。みな必死に生きているのに、生きてきたのに、その姿が悲しい。

 大学入学時、同じ下宿だった津島、佐藤、山田。いま、三鷹に一人残され酔いつぶれている津島。幕切れのせせらぎの音が、彼の明日を暗示する。

 太宰といえば、生家との軋轢とか、薬物中毒とか、何よりも女性との度重なる心中事件のイメージなんだけれど、ここではあえて「女性」の部分はあまり出さず、時代との関わりで捉えようとしているよう。彼はやっぱりお坊ちゃまの甘ちゃんで、それをどうしようもなく自覚しているのだけれど。だから動くのは、むしろ、友人のバリバリの活動家・佐藤であり、津軽の津島家の番頭で何くれとなく面倒をみる(当主である兄の命を受けて監視してる)中北。いや、この2人はとてもよかった。愚直なまでに活動に生きて、でも人としての誠実さがほんとに愛すべき人、の佐藤=山西惇。反対にいわゆる世間そのもので、純朴なようでいて実はしたたかな中北=辻萬長。

 よく6人で、この正味3時間15分の芝居ができる、というくらいに、中身が濃かった。遠目にしか見えなかったけど、岡本健一もきっと憂い顔の太宰のイメージそのものだったんだろうと思う・・・。

 私なんて、太宰の読者とも言えないので、単に「津軽」という風土と、女性のことくらいしか頭に浮かんでおらず、少しは見る目も広がったのかもしれない。桜桃忌に向けて、またゆかりの演劇や朗読が三鷹で行われるはずなので、それも一段と楽しみである。

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