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2008.12.29

「から騒ぎ」考(台詞のひとこと)

 タイトルは、多少(というより随分)大げさ。今年の10月、さいたま芸術劇場で「から騒ぎ」を見た時の感想(こちら)で、ちょっと含みのある書き方をした。それは、自分の見方に自信がなかったからで、得意の「聞き違い」あるいは「単純な理解不足」ではないかと思ったから。

 お芝居を見ていて気になったのは、ドン・ペドロの異母弟で悪人のドン・ジョンと彼の部下、ボラキオが悪だくみの相談をする場面。戯曲では2幕2場。ボラキオはヒアローの侍女マーガレットといい仲なのを利用して、夜中にヒアローの窓の下で「ヒアロー」と呼びかけ、窓から顔を出したマーガレットがさもヒアローであるかのように(連れ出したドン・ペドロたちに)思わせる、というくだり。

 お芝居でのボラキオの台詞は「・・・私がマーガレットを『ヒアロー』と呼び、マーガレットが私を『クローディオ」と呼ぶのを聞かせる・・・」というもの。ここを確認するために、ちくま文庫の「から騒ぎ」を買ったのであるよ。見ていたときにすごく違和感があったのだ。「クローディオ」と呼びかけていいの?と。俳優が台詞を間違えたのかと思った。

 で、白水社・小田島版をみると、そこは「・・・ヒーローと呼んでマーガレットに顔を出させ、マーガレットに私をいとしい人と呼ばせるだけのお芝居・・・」となっていて、クローディオとは書いてない。うーん。いや、この台詞だったら私は何も引っかかってないはず。

 仕方ないので原文はどうなっているのか見ることにして、図書館にあった WASHINGTON SQUARE PRESS 版を借りてきた。そこでは「・・・hear me call Margaret “Hero,” hear Margaret term me “Claudio,”・・・」とあり、うーむ、確かにクローディオと呼ばせるのだな。が、注もついていて、Borachioではないかとする編者もいるとのこと。さらに長い注もあるんだけど、英語力がおいつかない 邦訳する場合にも、何を底本とするのかという違いもあるだろうし、いちがいには言えないのは重々承知しているけれど、とりあえず私の「違和感」は根拠のないものではなかった、と確認だけはできた。

 お芝居でも本でも、何かに引っかかるとずっとひきずってしまうのが私の悪い癖でもある。それで残りの時間が楽しめないのなら本末転倒。しかも、見当違いであることもしばしばだし(だから「こうだ!」と自信を持ってはいえない。まあ仕事上で、文章を読む時には常に「Aの時にBが起こりCとなったが平仄が合うか」と気にしているからかな)。「木も森も見よ」でなくてはね。

 そういう自覚はあるんだけれど、でも、芝居の流れの中で自然な台詞というのはあって、そのためにあえて原本通りではない訳もある、ということはひとことにこだわった結果、実感したことでもある。

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コメント

翻訳者にとって一番重要なのは原作者の言いたいことを如何にスムーズに読者に伝えるかっていう当たり前のことなんですが、翻訳の勉強を少しした身にとっては肝心のそれが非常に難しいと思うことが多々あります。情報の取捨選択・整理・補足。ときには原作の間違いもあるかもしれないし。クローディオが間違いかどうかはともかく、確かに違和感を覚えますよね。
私も今思うと、一瞬おかしな気分になったような…でも、きびだんご様のように深く追究するほどには至りませんでした きびだんご様の探究心、頭が下がります。
精力的な観劇記、そして日常の色々なお話、楽しませていただきました。ありがとうございます。来年もどんなお話を伺えるか、期待しております。

投稿: SwingingFujisan | 2008.12.31 21:59

SwingingFujisanさま
あー、生まれ変わったら英語(か、ともかく外国語)の勉強をちゃんとしますです 原語がわかればなぁ、と思うことしきりです。が、今更何も頭には入りません。という悔いを確認しつつ、2008年が暮れていきますぅぅぅ。
クローディオに関しては、私がウッカリ観劇記に書いてしまったものだから、やはりそのままにはしておけないな、という気になりました。備忘録以外にもブログの効用あり、というところかもしれません。
こちらこそ、いろんな楽しいお話をありがとうございました。来年もどうぞよろしくお願いします。

投稿: きびだんご | 2008.12.31 23:28

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