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2010.09.30

ちっとも古びないイプセン

9月29日(水) 「ヘッダ・ガーブレル」 14:00~ 於・新国立劇場 小劇場

作/ヘンリック・イプセン 翻訳/アンネ・ランデ・ペータス 翻訳/長島確 演出/宮田慶子 出演/益岡徹(ヨルゲン・テスマン)、大地真央(ヘッダ=妻)、田島令子(ユリアーネ・テスマン=おば)、七瀬なつみ(エルヴステード夫人)、羽場裕一(ブラック判事)、山口馬木也(アイレルト・レーヴボルグ)、青山眉子(ベルテ=お手伝い)

 新国立劇場2010/2011シーズン開幕&シリーズ「JAPAN MEETS… 現代劇の系譜をひもとく」第1作。そして宮田慶子芸術監督のスタート作品である。

 このタイトルってぱっと頭に入ってこなくて、正直、この後につづく「やけたトタン屋根の上の猫」「わが町」というシリーズ3作の「通し割引チケット」でなければ買わなかったように思う(シリーズは2011年4月「ゴドーを待ちながら」まで4作品)。とりあえず「やけた~」を確保しておきたかったんだもん。

 しかし、イプセン=「人形の家」=ノラ=女性の自立、という定期テストの穴埋め問題的理解しかない私だったけど、ここで「ヘッダ・ガーブレル」を見て、改めて「近代劇の父」イプセンの存在を認識した、というところ。うん、シリーズ自体の展開も大いに楽しみになってきた。

 ところで、この4日前にパルコ劇場で見た「ハーパー・リーガン」も女性のフルネーム。偶然とはいえ、続けて見ることになったのだった。(そしてどちらも実際に見るまでは、タイトルが覚えにくかった)

 主人公、ヘッダ・ガーブレルは名士ガーブレル将軍(故人)の娘。だから今はほんとはヘッダ・テスマン。小さい頃から、お金にも美貌にも恵まれてチヤホヤされていたであろう彼女は、つい成り行きで冴えない学者のヨルゲン・テスマンと結婚する。そして6ヶ月もの新婚旅行(ただしその間、夫は研究にいそしんでいた)から帰ってきたところから、物語はスタートする。しかし、どう考えても、新生活は彼女にはおもしろくないものなのだ。折角、夫が頑張って手に入れた新居も、夫を「坊ちゃん」と呼ぶ女中も、年老いた叔母も、どうも気に入らないもよう。彼女を支配するのは、「退屈」なのだ。

 そこへ、どうやら彼女ともかつて曰くアリの、テスマン旧知のレーヴボルグがこの町に帰ってきているという。そしてヘッダが昔から歯牙にもかけなかったエルヴステード夫人が、彼の著作の手伝いをしているらしい。動転している彼女をなんなく支配し(親切ごかしだが完璧に「上から目線」で)、酒を断っていたレーヴボルグには酒を勧めてやがて来る彼の破滅への予感にゾクゾクする。

 人の幸福も生死も、退屈しのぎに自分で支配しようとする、しかし現実は、描いたような他人の「美しい死」はなく「つまらない死」であった。そしてくだらない人間に優位に立たれたとき、ヘッダは・・・。

 そういう誰かの運命を手中にしている、と思う時のヘッダ=大地真央の表情!(全く、想像できるでしょう!!) 対照的に凡人のヨルゲン=益岡徹と、ちっちゃなテーラ=七瀬なつみ。この2人はある意味、疑うことを知らないがゆえに、ヘッダには退屈で、精神的にいたぶりたくもなるのだろう。ひとりでほくそ笑んだりする大地真央から目が離せなかった。
 破滅型のレーヴボルグ=山口馬木也は、いかにもヨルゲンよりも才気がある感じ。そして食えないヤツのブラック判事=羽場裕一。それぞれが類型的であるとも言えるけれど(それがゆえに)おもしろかった。

 これが120年も前に発表されたなんて戯曲だなんて! と思えるほど、ヘッダのあり方は今もさして違和感はない。ラストシーンは、ちょっと「かもめ」でしたわねー。

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コメント

さんざん迷っているうちに結局見る時間なし、チケットもなし(Web松竹でね)でやめちゃった。大地真央が新聞でも好評だったし、きびだんご様のレポを拝読してやっぱり見ておくべきだったかな、と残念に思っているところです(「表に出ろいっ!」よりもっと見たかった)。私も「やけた~」が本命だったのですが、それもちょっとムリそう。
こういう演劇も一度は見ておきたいと思っていながら、なかなか…

投稿: SwingingFujisan | 2010.10.03 12:06

SwingingFujisanさま
そうですね、見てほしかったな、という思いはあります。「表に出ろいっ!」よりも。
このところ、私が見る芝居は、キャストが適役!と思えるものばかりで、これもそうではあるんですが、でも、また別の役者がやったらどうか?という興味もわきます。これからも絶対に上演される機会はあると思うので、その時はぜひぜひ!!
いま唐突に思いましたが、大地真央と七瀬なつみの役って、スカーレット・オハラとメラニーっぽいところもあるのかも。こういうのって永遠だ
「やけた~」は楽しみですが、主演2人のブログの気配では、格闘中?という感じ。T・ウィリアムズの作品では、いちばん見る機会が少ないので(学生時代に見たはずだけど、それだけかも)、その点でも楽しみです。
私は11月はあまり予定がないんですが(自分比)、12月が大変そうで・・・。

投稿: きびだんご | 2010.10.03 14:58

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