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2012.11.18

17世紀の魔女裁判と、赤狩り

11月16日(金) 「るつぼ」 18:30~ 於・新国立劇場 小劇場

作/アーサー・ミラー 翻訳/水谷八也 演出/宮田慶子 出演/池内博之(ジョン・プロクター)、鈴木杏(アビゲイル)、栗田桃子(エリザベス・プロクター)、佐々木愛(レベッカ・ナース)、檀臣幸(パリス牧師)、磯部勉(ダンフォース副総督)ほか

 「リチャード三世」からの3作品通しチケットで購入していたもので、そうでなければ見に行ってない可能性が高い。公演が始まってからはとても評判がいいんだけど、3時間40分ほどもあるし、重そうだし・・・と、パスしていそう。でも、これほんとに見てよかった。

 あいかわらずちっとも予習もせず、なんとなーく「魔女裁判」らしいというのは聞こえてたのに、えっ?中世ヨーロッパの話なの?というくらいの認識しかない私。
 実際には、独立以前のアメリカ、マサチューセッツ(セイレム)で、1692年に実際に起こった魔女裁判に材を取った作品。しかも、書かれたのは、レッドパージの嵐の頃。

 ・・・と、ここで今、突然思い出した! 私はこの戯曲が載ってる「悲劇喜劇」(2012年11月号)を持ってるんだ。「リチャード三世」を見に行った時に買ってたよ。またうっかり文庫本を買わないでよかった。

 そもそも、実際にあった事件だったなんて。若い女の子たちが、村の人たちを次々に魔女として告発して、実際に逮捕、処刑された人多数。Wikiにもちゃんと項目が立ってるのね。
 その告発の原因というか発端を、若い女性たちの「集団ヒステリー」からと、描くのだけれど、そのなんというか「とりつかれぶり」が圧巻。むかーしの「コックリさん」なんかの心理状態を少しだけ思い浮かべる。中学生くらいのちょっとした好奇心もあり、集団心理もあり(たぶん現実への様々な不満、不安もあったのだろう)。

 彼女たちのリーダーであるアビゲイルは、牧師の姪だけれど、プロクター家で女中として働いていたときに、主人・ジョンと関係して、妻から追い出されたことを恨みに思い、またその妻にとってかわって自分がその座につくことを願っている。ジョンはもううとましいだけ・・・今の感覚で見てはダメなわけで、「汝、姦淫するなかれ」に背くという、おそろしいことをしてしまっているのだ。

 不思議なことに、立場の違う登場人物のほとんどあらゆる人に「共感」できるというか、気持ちを推し量ることができる。尊大で地元の人との対立も多いパリス牧師の俗物ぶり、当時もはや拡大されつつあった「持てる者」「持たざる者」の対立と意識、うっかり若い子に手を出してしまった夫と、病弱な妻、真実を追求するヘイル牧師、多くの人を絞首台に送る判断をしたダンフォース総督、などなどなど。
 途中からこれはおかしい、なんとか救いたい、と思っても、「今までまちがった判断をしていた」とは決していえない。すでに執行された人が何人もいる。だから「悪魔と関係した」と告白してくれれば助けることができるのに・・・。

 というわけで、そんな魔女裁判が主となる第2幕はもう怒濤のよう。確か1幕よりも長いんだけど、うわ~、とドキドキしている間に(ほんとに、たたみかけられる感じ)、聖女のようなレベッカ・ナースもプロクターも、絞首台に送られる朝を迎える。

 鈴木杏がそんな「発端」のアビゲイルなわけだけれど、内に秘めたエネルギーの大きさ、恐ろしさを感じさせて圧巻。台詞を喋っているときだけではなくて、他の人の台詞の間の視線や、プロクター夫人が夫の姦淫について証言するのを待つ間(舞台前方に、正面を向いて、プロクターと左右に分かれて立っている)の土壇場の表情・・・。このとき、「決して嘘をつかない」夫人は姦淫を否定するのだが。

 いつの時代も、嵐のように吹き荒れる「おぞましい渦」に、まずは無自覚に巻き込まれ、いやおかしいじゃないか、と思った時には、引き返せないことになってる。前例踏襲、書類に書かれたことがすべて・・・。嵐がおさまったときには犠牲者は数知れないほどになってる。
 近代以前の、遠い地の話じゃないんだよね。

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コメント

今日(18日)が千穐楽でしたっけ。できればもう一度と思っていて果たせませんでしたが、セット券のおかげで見逃さずに済み良かったです。長くて重くて大変でしたが、終わってから落ち込むタイプの作品ではなかったですよね。
パリス牧師は、人生のうちに何人も出会っているタイプです(笑)まさにハーバードとか出てるヒトで。他もみんな少なからず思い浮かべられるんだけども、パリスさんは突出してる!
アビゲイルのような欲望に正直な確信犯は、小説には良く出てくるけど、実生活では意外と縁がないような。あ、縁がないからこそ平和に生きていられるのか!

投稿: 猫並 | 2012.11.18 18:28

猫並さま
本日めでたく千穐楽、でしたね お互い、セット券さまさま、でしたか。

ほんと、パリス牧師は俳優の造形もまたくどいくらいで(笑)。
頑固者のジイサンや、奴隷、地元の正義ヅラ書記たち・・・も、その気持ちには近づける感じがしたんです。私から一番遠いのはプロクター夫人かも。
でもラストは不覚にも涙が出ちゃいました。ちょうどその時、携帯のバイブ音もしたけど

投稿: きびだんご | 2012.11.18 21:31

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