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2012.11.13

読む「浮標」

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 ↑新幹線で東京・京都を往復する間のお供は、ハヤカワ演劇文庫から出た「浮標(ブイ)」(三好十郎)。9月~10月の公演に合わせて発刊されていた。だから、帯もこんな感じ。

 新字・旧かな遣いだけど、文字も大きいし、読みづらくはない。五郎=田中哲司や小母さん=佐藤直子の声が、ほんとに耳元に甦ってくるようで、その情景を思い出すだけで、涙が出そうになったことも。

 声すなわち言葉の圧倒的な存在は五郎だけれど、小母さんの独特な言葉遣いもインパクト大。戯曲では、〈京都生れだが、中年から大阪や東京や田舎などに移り住んだせゐで、いろいろな言葉が混り込んで、不思議な京都弁になってしまった〉、とある。最初に「千葉市の郊外」と場所が提示されてたから、なんでこんな言葉なの?と見ながら思ったりしてた。佐藤さんの声がまた、たくましいオバチャンそのものでもあった。

 妻の美緒は、重病だからそもそもそんなに喋らない。喋ろうとすると五郎に叱られる(体力を使うから)。だから、読みながら思い出すのは、松雪泰子の手の動きや、表情など。はかなげな人でありながら、生な「女」でもある美緒がよかったなぁ。

 見ている時はそれほど注意を払ってなかった、小母さんの民間療法的「蛇の黒焼き」の話。いま読んでいると、ものすごく、必要以上に存在感をもって迫ってきたから驚いた。それが小母さんの口から発せられたとたん、終盤のシーンが甦って、五郎の気持ちも、小母さんの気持ちもやりきれないほど痛々しかった。まったくおぞましい存在だ。

 ところで、文庫版には、三好十郎の「浮標」あとがきと、長塚圭史による演出ノートが収められている。それもまたこの上なくありがたい。
 さらに巻末に上演記録もあって、1940年の初演と、文化座による1958年の公演、そして新国立劇場の2003年公演(栗山民也演出、生瀬勝久ほか出演。これには北村有起哉くんも出てたんだね←赤井の兵隊さんかな)が。しかーし、去年の長塚演出の初演の記録はどこにもない! 長塚さんが、初演のさいちゅうに再演を考えていたということも合わせると、何か表現できていない不満があったのかしらん。と、まあつい考えてしまうわけですよ。長塚初演では美緒の妹・恵子は洋装だったし(母親は和装)。それだけでも随分イメージが違うのではある。

 最後に、五郎の言葉で、長塚「演出ノート」でも最後に太字で書かれている部分を引用しておきます。

 ・・・・俺達あ、美しい、かけがへのない肉体を持つてゐるんだ。ゆづるな。石にかじり付いても、赤つ恥を掻いても、どんなに苦しくつても、かまふ事あ無い。真暗な、なんにも無い世界に自分の身体をゆづつてたまるか。

 

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