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2014.10.18

舞台を見る醍醐味

10月14日(火)  「炎  アンサンディ」  19:00〜  於・シアタートラム

作/ワジディ・ムワワド   翻訳/藤井慎太郎   演出/上村聡史   出演/麻実れい、栗田桃子、小柳友、中嶋しゅう、中村彰男、那須佐代子、岡本健一

  手元に真っ赤な表紙のA5判パンフレットがある。冒頭の「ごあいさつ」で萬斎さんが(世田谷パブリックシアター企画制作だからね)、「この秋一番の衝撃作といえる」と書いている。確かに、決して甘くはない3時間超のこの芝居は、見る者に否応なしに、世界で起こっていること、起こるかも知れないこと、をつきつける。
作者ムワワド氏は、1968年ベイルート生まれ。75年に勃発した内戦から逃れてフランスに亡命し、のち83年カナダに移住。そんな彼の背景が色濃く反映された作品。現在のモントリオールに始まり、過去の中東の様々な場面が浮かびつつ、いまはもう死んでしまっているナワルの過酷な人生をたどる。それは、彼女の双子の子供たちに宛てた遺言のかたちを取って。

  冒頭、公証人(中嶋しゅう)が、ほぼ一人でしゃべっている。双子(栗田桃子、小柳友)はいても声を発さない。でも、その立ち姿がすでにいろんなものを背負っているかのよう。大掛かりな装置などない、がらんとした舞台なのに、もうのっけからひきつけられてしまう。

そこで語られたのは、亡くなったナワルの遺言。自分の埋葬に関する指示、また、子どもそれぞれに託した手紙のこと(とうに死んでしまっていたはずの父、存在すら知らなかった兄に宛てたもの)。それらに導かれて、私たちはナワルの「過酷な」人生を見る。

ナワルを演じる麻実れいは、まず10代の恋する少女として登場。その後、文字を学び村を出、産み落としてすぐに引き離された子を探して内戦の町を歩く。そこには目を背けたくなるような現実がある。
思えば、彼女と双子とが直接、会話する場面はない。「いま」ナワルは生きてはおらず、その彼女を求めるかのように、子どもたちも中東へ飛び、真実を探す。

出演者は7人と少ないけれど(ゆえに何役も兼ねる)、力のある人たちならこんなに目に前の世界に浸れるのか、と思いながら見ていた。地味な実力派多し、というところ。小柳友の「若さ」はここでは必要だし、岡本健一のある種の狂気もピタリとはまってた。
何より、ラストでまさに聖母のように見えた麻実れいは、長く記憶に残る気がする。
数多い場面転換時に流れるピアノも不思議に胸に迫る(音楽のクレジットなし)。

日々、数多くの作品が上演されている。その中で、ほぼ偶然に出合う舞台で豊かな時間を得ることがある。だから、やめられないのよね〜。

*初演は2003年、フランスおよびカナダにて。
*2010年、「灼熱の魂」と題して映画化されている(フランス/カナダ)。冒頭シーンにレディオ・ヘッドの曲が流れるという。興味あるけど、映像のリアルさに耐えられるか不安。つくづく、目の前にないものをイメージする方が好きなんだな、と思う。ものすごく貧弱なイメージであっても。

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コメント

これは、戯曲で読んだらわからなかったかもしれないなーと感じました。脚本が悪いわけじゃなく、演出も、キャストの力も、すべてが揃ってやっと作品になり、作品としてすばらしいなと。見られて良かったです。
でも、ものすごくキャストを選ぶような気もしました。巧いとかではなく、キャストによって、見る側の中に描かれる風景が変わりそう。
このキャストで良かったです。
この役があの人だったら…をいろいろ妄想しましたが、どの役も、このキャストがいいなと。あと、ライブってすごいなと。

投稿: 猫並 | 2014.10.19 21:56

猫並さま
あっ、ほんとそうですね。読んだら、何回も行きつ戻りつしながら、結局、読み進められない気がします。
こんな風に目の前に提示される、それを目で耳で……感じて受け止める。つかの間、時間も空間も移動しちゃってるような、自分にとってのいい舞台って、こういうのでは、などと思っています。
私は他のキャストを思い浮かべてみることすら、しませんでした。
そうそう、レバノンという場所についても、見てる時はあまり、どこ??なんて思わなかったのに、ナワルは最初の子をいくつで産んだんだ? などは、つい考えちゃいました。こういうのも、仕事で小説を読むとき、出来事と年齢が合ってるか考えるから、そのクセから逃れられないみたい。

投稿: きびだんご | 2014.10.20 01:06

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