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2018.03.26

重いけれど後味は悪くない、戦犯の物語

3月23日(金) 「赤道の下のマクベス」 18:30〜 於・新国立劇場 小劇場

作・演出/鄭義信 出演/池内博之(朴南星)、平田満(黒田直次郎)、尾上寛之(李文平)、浅野雅博(山形武雄)、木津誠之(小西正蔵)、丸山厚人(金春吉)ほか

日程が決められないまま、チャンスを待っていたので、席はD5列。つまり後方。特に誰かを近くで見たいというわけでもないし、と思っていたけれど(そして全体を見渡せる利点もあったけれど)、役者さんたちの熱演、もう少し近くからも見たかったなー。

1947年夏の、シンガポール・チャンギ刑務所。裁判で死刑が確定している6人のBC級戦犯が収容されている。戦犯について、多少は知っていた。何かと話題になるA級戦犯で有罪になったのは二十数名だけれど、BC級の数たるや。そしてA、B、Cが罪や刑の重さとは全く関係ないことなど。

ここに登場するのは、泰緬鉄道建設において捕虜や現地人を虐待した廉で死刑判決を受けた6人。その半数は朝鮮人(併合下の出来事だから、日本名も持つ)、という視点が、そもそも鄭義信である。戦犯の人数という「数字」だけでツルッと見過ごしていた現実に、まずはガーン、というところ。

とはいえ、6人それぞれ、ここまでの道は様々。その背景を説明くさくなく描いていく。そもそもの対立関係(命令者だった山形大尉への恨みを持つ金春吉)もある。浅野さん演じる大尉は、他の人と交わらず一貫して寡黙。この役ってストレスたまりそうねぇ。彼を「大尉どの」と呼ぶ小西(そもそも部下だった)は、字が書けないので、代わりに故郷の妻に手紙を書いてくれるよう頼む。その手紙(山形が読み上げる)が、途中から山形自身の妻宛てのものとなる。ここが唯一の感情の発露だったかな。

この場面もそうだけれど、言葉を通して、頭の中で想像するシーンがとてもクッキリと描ける。そして泣いてしまう。どの人においても。そう!残酷な話はいくつもある。鉄道建設の悲惨、黒田が体験したガダルカナルの餓死の現実、山形大尉にいじめ抜かれて死を選んだ金春吉の友人……。言葉で伝えられるそれらが、なぜかすごく伝わるんだなー。

いいところの息子(でも父親との葛藤が)の南星がずっと「マクベス」を離さず、余興大会で一部を演じてもいるらしい。そのあたりの「別軸」が、程よい軽さというか、効果的でもある。この池内博之と、黒田=平田満の関係が、ラストに向かって盛り上がったなぁ。平田さん、すごいよ。

そうそう、刑務所の上官が「Death by hunging」(←こんな単語も忘れてる。hangingですかね。改ざんはせず)、と言った時、あっ私ハンギング(じゃなくて「ハングマン 」)見るんだよねー、と邪念が入っちゃった。

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演劇」カテゴリの記事

コメント

良かったですよね、これ。
私は、2回目の時は、6人の人生の背景みたいなものをいろいろ妄想しながら見ちゃいました。戦後に売る田んぼがいくつもあるような資産家のボンボンの演劇青年と、極貧の中で生まれ育ったっぽい母一人子一人の若者と、ごくごく普通の青年と、朝鮮人軍属と一括りにできないなあとか。特に、山形の妄想が…だってあの時代、軍人として出世を目指すなら兵学校ですよね。それが東京帝国大学。帝大だったら大蔵省か外務省か内務省でしょうに、なんで外地で捕虜の監視なのか。案外、夏目漱石のような文学青年で、故郷で教師になるつもりが時代のせいでこんなことになっちゃって?なんてどんどん想像しちゃいました。平田満の黒田だけ情報がなくて人生が浮かばなかったのは、情報がなかったせいですが、それは壮絶な戦争体験に塗りつぶされたってことななんでしょうかねー
とにかく、今、マクベスが見たくて仕方ないです。できればスタンダードなマクベス!

投稿: 猫並 | 2018.03.27 20:22

猫並さま

私も初日あたりに見ていたら、リピートしていたような気がします。
母一人子一人の泣き虫チビッコも、冒頭から存在感発揮。だんだん彼がどんな子かわかって行く過程も、よかったです。結局、きがつけば全員がそんな感じなんですよね。
ドラマ「アンナチュナル」をずっと見てたんですが、この尾上寛之くんがサイコ?な犯人で、落差が……。

先日の「ドレッサー」はリア王で、今回マクベス。相変わらず、いろいろ刺激してくれるシェイクスピアです。たしかにフツーのマクベスを見たいですね。

投稿: きびだんご | 2018.03.28 21:21

きびだんごさま
お留守中に失礼いたします。
4月に観たこの舞台の感想をやっとアップしてこちらにお邪魔
したのですが、「そうそう!」と思うところが多々あって
思わずコメントを(^^ゞ

「そして泣いてしまう。どの人においても」
ほんと、これですよね。
どの人にもその人の人生と物語があって、それが鄭義信さんが
意図するところの「市井の人々の戦争」なんだと、今更ながら
うまいなぁと思いました。

そして ↑ の猫並さんへのお返事読んで思わず笑ってしまいました。
私は4月に観たので「アンナチュラル」終わった後だったのですが
最初に李文平くん出てきた時、「あいつじゃん!全然違う!」
と思ったのでした(当たり前)。
役者さんってやっぱりスゴイですよね。

投稿: スキップ | 2018.05.05 14:56

スキップさま

旅先で拝読してました。そしてちょっと思い出したりもして。(たまたま行きの飛行機で韓国の「タクシー運転手」という光州事件を扱った映画を見たのでした)

シンプルな舞台装置も、とても印象的でしたよね。ずいぶん時間が経ってから振り返っても、くっきりと思い描ける力強い舞台空間。
演劇って、知らなかったことに気づかされたり、見ないですませてきたことに目を向けるきっかけになったり、改めてそんな「力」のことも思ったりします。

投稿: きびだんご | 2018.05.07 01:32

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